Contents
1. 導入:この本を読むべき理由
「資金調達って、どう始めたらいいの?」「VCから出資を受けた方がいいの?」「創業者の持ち株比率って、結局どれくらいが適正なの?」
起業やスタートアップに関わるすべての挑戦者にとって、資金や株式の知識は必要不可欠です。しかし、ファイナンスの世界は専門用語や複雑な制度が入り乱れ、「難しそう」と敬遠されがちです。
僕も起業当初、「持株比率の設計って、何となくやっていいものなのか?」と直感と勘に頼っていた時期がありました。ですが、そんな曖昧な理解は後になって致命的な差になります。
『起業のファイナンス』は、そういった“後悔”を未然に防ぐための実践書です。著者の磯崎哲也さんは、ベンチャーキャピタルの世界で長年にわたって起業家を見てきたプロ。その目線から「なぜこの意思決定が重要なのか」「何がリスクになるのか」が論理的かつ具体的に語られています。
本書は「起業の教科書」ではありません。実践するための「設計図」です。そして、挑戦者が「勝ちやすい構造」を作るための武器です。
2. 書籍の概要:著者・出版背景・構成と対象読者
書籍情報
- 書籍名:起業のファイナンス 増補改訂版
- 著者:磯崎哲也
- 出版社:日本実業出版社
- 初版:2010年、増補改訂版:2014年
- ページ数:約350ページ
- ジャンル:ベンチャー経営・資本政策・資金調達
著者について
著者の磯崎哲也氏は、スタートアップ投資に特化したフェムトグロースキャピタルの代表パートナー。金融の実務経験を持ちながら、多くの起業家に寄り添ってきた「現場の知見」を持つ数少ない投資家です。
投資家としての視点にとどまらず、起業家支援に必要な知識を包括的に伝えるため、2010年に本書を出版。さらに2014年には最新のベンチャー環境に合わせて増補改訂されています。
対象読者
- 資金調達を視野に入れた創業者、共同創業者
- ベンチャー支援を行う中小企業診断士、税理士、社労士
- エクイティファイナンスについて学びたい経営者
- IPOやM&Aをゴールに据えたスタートアップ関係者
本書の構成(全9章)
- ベンチャーファイナンスの全体像
- 会社の始め方
- 事業計画の作り方
- 企業価値とは何か?
- ストックオプションの活用
- 資本政策の作り方
- 投資契約と投資家との交渉
- 優先株式のすすめ
- ベンチャーのコーポレートガバナンス
3. 要点まとめ
起業時の資本政策は「全ての出発点」である
本書で最も繰り返されるメッセージの一つが「最初の資本政策がすべてを決める」ということ。資本政策とは単なる株式比率の設計にとどまりません。将来の資金調達、ストックオプション設計、EXIT(上場・M&A)時の持分バランスまでを見据えた設計図です。
特に創業期において、投資家に過度な株式を渡してしまうと、後から修正が効かず、経営の自由度が著しく制限されるリスクがあります。
「今は少額だし…」と安易に株式を渡すのではなく、「このラウンドではどれくらいのバリュエーションを設定し、誰にどれだけ渡すか」を戦略的に考える必要があるのです。
企業価値は「需要と供給」で決まる
企業価値を決める方法として、DCF法、類似企業比較法、純資産法といった方法が解説されていますが、著者が伝えたい本質は「企業価値は需給で決まる」という現実です。
つまり、どんなに理論的に価値がある会社でも、買いたい人がいなければ高値では売れない。逆に、期待感や将来性があれば、現在の業績が多少弱くても高い評価を受けることもあるのです。
この「理論と現実のギャップ」を埋めるために必要なのが、情報発信、チーム編成、株主構成などの「周辺設計」です。財務だけでなく、こうしたソフト面までを含めて経営することが求められると本書は教えてくれます。
ストックオプションは「設計」で価値が決まる
ストックオプションは「夢を見せる仕組み」でありながら、実際にはその設計によって「絵に描いた餅」にもなりうる諸刃の剣です。
たとえば、
- 税制適格ストックオプションか否か
- 権利確定期間(ベスティング)の設計
- 行使価格の決め方
- 対象者と配分ルール
これらを誤ると、せっかくの制度も社員にメリットを与えず、モチベーションの源にならないばかりか、税務トラブルのもとにもなりかねません。
著者はこのストックオプション設計の「現場」で起きた失敗と成功を具体的に紹介しながら、どうすれば適切に運用できるかを指南しています。4. 印象に残った言葉・フレーズ(引用とその背景解説)
「イケてる起業を増やすことが、すべてを変える。」
これは本書の序章で繰り返し語られるキーメッセージです。磯崎氏は、個々の起業家の成功が社会全体の好循環につながるという信念を持っています。
「イケてる起業」とは、単に資金調達に成功した企業を指すのではありません。構想が優れ、チームが強く、社会的意義も持ち、そして長期的に成長が期待できる事業。それが連鎖的に生まれていけば、投資家、専門家、支援者、顧客を巻き込み、「エコシステム全体の質」が上がる。
この発想は、日本でベンチャーを志すすべての人にとって、まさに背中を押すフレーズです。
5. 中小企業診断士としての考察・経営者視点での価値
中小企業診断士として本書を読むと、支援者としての姿勢が問われる本でもあります。
僕が注目したのは、ファイナンスのテクニックや制度設計だけでなく、経営の全体像に資金戦略をどう統合していくかに焦点が当たっている点です。たとえば、
- 事業計画に基づいた資本政策
- ステージごとに必要となる人材と報酬設計
- ガバナンス強化による企業価値の最大化
これらはどれも、診断士が関与すべき「成長支援の核心」です。
また、事業再生や事業承継の文脈においても、資本政策の理解がないと適切な意思決定ができません。ファイナンスは単なる「資金の話」ではなく、「事業の未来像をどう描くか」の話なのです。
6. この本が挑戦者に与える影響・実践で活きる場面
『起業のファイナンス』が読者に与える影響は、決して“知識が増える”ことにとどまりません。むしろ重要なのは、“経営判断が変わる”という点です。
実践で活きる主なシーン
- 創業時:誰に株式を渡すか、何%ずつ保つかという意思決定を迫られる時
- ピッチ資料作成時:どこまでのスケールが現実的か、事業計画との整合性をチェック
- 資金調達交渉時:出資条件を冷静に評価し、交渉の土俵に立てる
- EXIT直前期:上場かM&Aか、それぞれのメリット・デメリットを整理する
このように、本書は読むタイミングによって“刺さる部分”が変わるのも特徴です。起業後すぐに読んでも良いし、シリーズA、Bに向けて資本戦略を立て直す時にも重宝します。
7. 誰におすすめか?どう使えば効果的か?
本書は単なる入門書ではなく、実務に根ざした戦略書です。よって、次のような方に特におすすめです。
おすすめの読者層
- 起業準備中の個人:法人設立、株式設計の段階で重要な判断が迫られる
- 現役経営者(特にシード〜シリーズA):資本政策の見直しや投資契約前に必読
- 士業・コンサルタント:起業支援の現場でアドバイスの幅を広げたい人
- 社内新規事業担当者:CVCや社外との連携を見据える場合に備えておきたい
効果的な使い方
- 読みながら、自社の株主構成・資本政策表を同時に書き出す
- 投資家との初回面談前に要点を復習し、交渉ポイントを明確にする
- ストックオプション設計時に、章ごとの注意点をチェックリスト化して確認
- 周囲の創業者・支援者と読み合わせをし、視点の違いを議論する
8. 関連書籍との違いと併読提案(例:◯◯との比較)
書籍名 | 主な内容 | 本書との違い | 併読メリット |
---|---|---|---|
起業の科学(田所雅之) | 起業のステップ・プロセスを可視化 | マーケティングとユーザー検証が中心 | 実行→資金調達まで一連の流れが理解できる |
ZERO to ONE(ピーター・ティール) | 革新的な価値創造と差別化の哲学 | 思想・哲学に寄った構成 | アイデア創出と現実的ファイナンス設計の融合 |
起業のエクイティ・ファイナンス(磯崎哲也) | 本書の中級編。契約条項や交渉の実務詳細 | より実務向けで深い | 本書で土台を固めた後、実践に進むための橋渡しに |
9. 読者の悩み別「この本の使い方ガイド」
悩み | 該当章・読み方 |
---|---|
株式比率はどう決めるべき? | 第6章「資本政策の作り方」でシミュレーション事例を確認 |
投資契約って何を注意すべき? | 第7章「投資契約と投資家との交渉」の実例を精読 |
ストックオプションは発行すべき? | 第5章「ストックオプションの活用」全体を通読 |
上場かM&Aか、どちらを目指す? | 第4章「企業価値とは何か」+第9章「ガバナンス」 |
投資家との関係に悩んでいる | 第9章「コーポレートガバナンス」で利害関係の整理方法を学ぶ |
10. 読後すぐに実践できる「5つの行動リスト」
- 現在の株主構成を図に描いてみる
→ 直感的に見えることで、課題が浮かび上がる。 - 「5年後の出口戦略」を明文化する
→ 上場かM&Aか、それによって資本政策も変わる。 - 資本政策表を1枚で作成してみる
→ 「出資後に誰が何%持つのか」を把握する訓練に。 - ストックオプションの制度概要を1ページに要約
→ 社内共有用にも使えるし、知識の整理になる。 - 本書を起業仲間・士業と一緒に輪読して議論する
→ “共通言語”を作ることで意思決定のスピードが上がる。
11. まとめ:この本が挑戦に与える希望と再現性
『起業のファイナンス』は、単なるファイナンスの解説書ではありません。それは、「勝つための仕組みを自分で組み上げるための構造理解本」です。
日本ではまだまだ、株式や資本政策に関する教育が十分ではありません。そのなかで、本書は極めて貴重なナビゲーターとして機能します。
“投資家に話を合わせるための知識”ではなく、
“自らが構造を組み上げるための戦略思考”。
これを手にした起業家は、圧倒的に勝ちやすくなる。
そう断言できるだけの内容が、本書には詰まっています。
もしあなたが、単に「やってみたい」ではなく「勝ちたい」と思っているなら、今すぐこの本を手に取ってください。