Contents
1. 導入:この本を読むべき理由
「KPIって結局、何をどう設定すればいいのか分からない」「数字管理は苦手だけど、会社を成長させたい」「部下に成果を出させる仕組みを作りたい」——こんな悩みを抱えている起業家、マネージャー、経営者の方にこそ、本書『最高の結果を出すKPIマネジメント』は読んでほしい一冊です。
僕自身も中小企業診断士として多くの経営現場に立ち会ってきましたが、KPIの設計と運用で組織の成果は大きく変わります。それは、単なる目標管理ツールではなく、「再現性ある成果創出のフレーム」だからです。本書は、KPIに対する誤解を解きほぐし、具体的な設計・運用方法をリクルートの実践知をベースに体系立てて教えてくれる極めて実務的な一冊です。
2. 書籍の概要:著者・出版背景・構成と対象読者
本書の著者・中尾隆一郎氏は、リクルートで29年にわたって事業開発やマネジメントを担い、KPI講師として11年間にわたり社内研修を担当してきた実践派。現在は株式会社FIXERの執行役員副社長としても活躍されています。
出版は2018年、フォレスト出版より発行。本書の構成は以下の通り:
- 第1章:KPIの基礎知識
- 第2章:KPIマネジメントを実践するコツ
- 第3章:KPIマネジメントを実践する前に知っておいてほしい3つのこと
- 第4章:さまざまなケースから学ぶKPI事例集
対象読者は、スタートアップ経営者、中小企業のマネージャー、KPI導入を検討する現場責任者など「これからKPIマネジメントに取り組むすべての実務家」です。
3. 要点まとめ
KPIは「事業成功の鍵を数値で表すもの」
著者はKPIを「Key Performance Indicator」=「事業成功の鍵を数値目標で表したもの」と定義します。つまり、KPIとは「測るべき指標」ではなく「成功のカギ」であり、KGIとの関係性の中で設計される必要があります。
KPI設計に必要な3つの視点:整合性・安定性・単純性
KPIを設計する際の基準として、以下の3つが示されています。
- 整合性:KPIとKGI(最終目標)が理論的に繋がっているか
- 安定性:数値の取得が安定しているか
- 単純性:現場メンバーが理解・納得できるか
この三要素が揃わなければ、どれほど優れたKPI設計でも現場で活かされません。
KPI運用の8ステップが明快すぎる
著者はKPIマネジメントの手順を「KGIの確認→ギャップの把握→プロセスの確認→絞り込み→目標設定→運用性確認→対策の事前検討→運用・改善」という8ステップで体系化しています。まさに現場で“そのまま使える”フレームです。
KPIは「パクる」から始めてよい
著者が繰り返し提唱しているのが「TTP(徹底的にパクる)」という考え方。これはリクルート社内で使われていた言葉で、「成功事例をそのまま真似ること」からスタートして、やがては「TTPS(徹底的にパクって進化させる)」に昇華することを目指します。KPI設計もまさにこのスタンスで構築して良いという勇気を与えてくれます。
KPIは組織の自律自転を生み出す「共通言語」
KPIを適切に設計し、運用することで、組織は「指示待ち」から脱却し、「自ら動く」状態に変化します。本書には、KPIが自律型組織をどう育てるか、具体的な事例が多数収録されており、読む者に“やれる気”を与えてくれます。
4. 印象に残った言葉・フレーズ
「KPIとは、事業成功の“鍵”を“数値目標”で表したもの」
この一文にKPIマネジメントのすべてが凝縮されていると感じました。KPIは単なる数字ではなく、「事業成功とは何か」を定義し、チーム全員で共有できる“地図”でもあります。
「徹底的にパクれ(TTP)」「徹底的にパクって進化させろ(TTPS)」
KPI設計における出発点は、必ずしもオリジナリティではない。この「TTP」という考え方は、現場でKPI導入に二の足を踏む人たちにとっての最高の後押しになるでしょう。
「振り返るという習慣がない組織には、成功も再現できない」
KPIは振り返りを仕組みにするための道具でもあります。この視点は、KPIの本質が“数字の管理”ではなく“組織学習”であることを教えてくれます。
5. 中小企業診断士としての考察・経営者視点での価値
僕自身、多くの中小企業やベンチャーに入り込み、経営課題をともに解決してきました。その中で最も多いのが「現場と経営の距離感」「属人化した目標管理」「PDCAが回らない組織」の課題です。本書は、こうした実務上の悩みを見事に言語化・フレーム化してくれています。
特に秀逸なのは、KGI→KPIの設計に「CSF(成功の重要要因)」という中間項を挟み、プロセスに落とし込む設計思想。この一手間が、数字のつながりを明確にし、現場の納得度を高めるのです。
6. この本が挑戦者に与える影響・実践で活きる場面
- 新規事業の立ち上げフェーズで、成果をどう定義し、何を追いかけるべきか明確になる
- 売上目標に対し、メンバーが日々行動すべきKPIを自ら把握できるようになる
- 多店舗展開、複数プロジェクト運用時の共通言語としてKPIが活きる
- 管理会計や営業会議の数値報告が「意味を持つ数字」へと変わる
この本を読んだあとは、曖昧だった“数字と行動”の関係が明確になり、「これなら自社にもKPIを導入できる」と感じられるはずです。
7. 誰におすすめか?どう使えば効果的か?
おすすめ対象
- 創業期の起業家
- マネージャー昇格直後のリーダー
- 数値管理に苦手意識がある現場責任者
- 売上・利益に悩む中小企業経営者
- 新規事業部門の担当者やCxOクラス
効果的な使い方
- 自社KPI設計の際に、本書の「KGI・CSF・KPIフレーム」を使って実際に設計してみる
- 部下との面談でKPIの意味を対話しながら共有する
- 数値の「見える化」から「意味のある管理」への橋渡しに活用する
- 各章末の設問や事例を、自社ケースに当てはめてディスカッションする
8. 関連書籍との違いと併読提案
比較対象:
- 『THE FOUR DISCIPLINES OF EXECUTION(4DX)』
- 『OKR(ジョン・ドーア)』
- 『超鬼速PDCA(冨田和成)』
違いと特徴:
書籍 | フレームの特徴 | 現場への落とし込み | 難易度 |
---|---|---|---|
本書 | KPI設計に特化、TTPによる導入支援 | 高い(事例豊富) | 中 |
4DX | 実行重視で全体設計も含む | やや抽象的 | 高 |
OKR | 野心的な目標設計が軸 | 現場適用にはチューニング必要 | 高 |
超鬼速PDCA | 実行と修正の高速化 | KPI設計には触れない | 中 |
併読するなら、『超鬼速PDCA』とのセットがおすすめです。KPI設計とPDCA運用の両輪が揃います。
9. 補足パート②:読者の悩み別「この本の使い方ガイド」
「数字に弱い」と感じている人へ
まずは「KPI=事業成功の鍵」という定義を覚えるだけでOK。難しい会計や統計は出てきません。具体的事例で読み進められるので、数字アレルギーのある人でも挫折しません。
「目標をチームで共有できない」と悩んでいる人へ
第2章と第3章で紹介されている“KPI設計の8ステップ”をそのまま会議に持ち込みましょう。とくに「ギャップ確認→KPI抽出→運用性確認」の流れは、現場の納得感を生み出すのに最適です。
「自走するチームを作りたい」人へ
TTPSの概念=「徹底的にパクって進化させる」はまさに自律自転の起点です。メンバーが「真似→内化→自分流に改良」する循環を作る仕掛けとして、KPIが非常に効果的です。
「KPIは導入しているが形骸化している」人へ
本書はKPIを“再定義”するための最良のツールです。「単純性・整合性・安定性」の3点チェックだけでも再構築に使えます。
10. 読後すぐに実践できる「5つの行動リスト」
- 「事業成功の定義」を言語化する(=KGIの設定)
→何が成果なのかを、チームで共通認識として明確にする。 - CSF(重要成功要因)を3つ書き出す
→成功の鍵は何か?を具体的に挙げる。 - それぞれに対応するKPIを設計する
→「行動を測れる数字」になっているか?でチェック。 - KPIの単純性・整合性・安定性を確認する
→現場で「意味のある指標」になっているか確認。 - 小さなチーム・小さなプロジェクトで試す
→最初はスモールスタートでOK。成功体験をまず一つ作る。
11. まとめ:この本が挑戦に与える希望と再現性
本書は、KPIという無味乾燥な「数字の管理」ではなく、「再現性ある成功の仕組み」を作るための“実践マニュアル”です。
僕自身、中小企業診断士として多くの現場で痛感してきたのは、「現場に落ちる言葉」で語られたフレームの強さ。そして、本書にはまさにその要素が詰まっている。
KPIを「やらなきゃいけないもの」から「勝ちパターンを見つける手段」へと進化させてくれる内容です。
事業はギャンブルではない。成功には再現性が必要です。そのための最初の一歩として、僕はこの本を強く推薦します。