Contents
1. この本を読むべき理由
経営戦略って、結局どれが正しいの?
ポーター?バーニー?イノベーション?それともブルーオーシャン?
こんな風に、戦略論を学ぶうちに「誰の理論を信じればいいのか」「いつの時代にどの戦略が通用するのか」で混乱した経験はないだろうか。
実際、僕自身も中小企業診断士として数多くのクライアントと向き合ってきた中で、ある戦略論がある会社では効果を発揮し、別の会社ではまったく機能しないという現象に何度も出くわしてきた。
そんなとき、まるで「経営戦略の世界地図」のような全体像が欲しくなる。
それが、この『経営戦略全史』だ。
本書は、戦略論の始祖であるテイラーから、最新のアダプティブ戦略やリーン・スタートアップまで、100年以上にわたる経営戦略の「巨人たちの闘い」を軸に、その思想の変遷と背景、実務での意味を体系的に解き明かしてくれる。
特定の理論を信奉する前に、経営戦略の「文脈と進化の軌跡」を知ること。それが本書を読む最大の理由だ。
2. 書籍の概要:著者・出版背景・構成と対象読者
著者の三谷宏治氏は、元ボストンコンサルティンググループ(BCG)およびアクセンチュアでの経歴を持つ戦略コンサルタントであり、現在は教育者としても活躍している人物だ。
本書『経営戦略全史』は2013年にディスカヴァー・トゥエンティワンから出版されたもので、以下の3点で特異な構成を持つ。
- 経営戦略の潮流を「思想の進化」として捉える時間軸型の構成
- 戦略家たちの個性を際立たせる「フィクション対談(巨人たちの午後)」の導入
- 学術的要素とコンサル実務視点を融合した稀有な一冊
対象読者は、以下のような人たちにフィットする:
- 経営戦略を体系的に学びたいが、複雑な理論に挫折しがちな人
- MBAなどで学んだが「全体像」が見えないと感じている人
- 現場での意思決定に迷い、根拠あるフレームワークを求めている経営者や管理職
3. 要点まとめ
経営戦略の三大潮流:「ポジショニング」「ケイパビリティ」「アダプティブ」
戦略論の100年史はこの3つに集約される。
- ポジショニング派(例:ポーター):外部環境(業界構造)に着目し、「どこで戦うか」が重要
- ケイパビリティ派(例:バーニー):内部資源(人材、プロセス)に着目し、「何が強みか」で勝負
- アダプティブ派(例:グーグル、ZARA):試行錯誤とスピードによって「やってみて決める」柔軟性重視
時代によってこの3つの比重は変化し、現代では「統合的思考」こそが求められている。
「巨人たちの午後」対談形式がもたらす理解の深化
本書のユニークな構成として、思想家同士が時空を超えて対談するというフィクションパートが挿入されている。
たとえば、テイラーとメイヨー、ポーターとバーニーの対話は、彼らの思想の違いを物語として理解させてくれる。
この構成により、ただの理論説明ではなく、「思考の背景」や「理論同士の対立構造」まで立体的に把握できる。
戦略論の“起源”を遡る意義
現代の多くの経営者が誤って理解しがちな「SWOT分析」や「PPMマトリクス」の本来の意図や限界が丁寧に解説されている。
それらの誤解を正すことで、表面的な戦略思考から脱却できる。
戦略家は「個人の物語」から生まれる
著者は、経営戦略が単なるフレームワークの集合ではなく、「個人の哲学」として形成されてきたことを強調する。
つまり、背景にある人生観・社会観・経済観を読み解くことで、戦略論ははじめて“血が通う”ものになる。
これは、戦略の「再現性」を探るうえで極めて本質的な姿勢である。
歴史に学ぶとは「複数の可能性を知る」こと
「過去の成功例に学べ」という言葉は誤解されやすい。
本書はむしろ「同じ状況でも違う戦略が成り立つ」という事実を提示し、読者に“選択の幅”を与えてくれる。
4. 印象に残った言葉・フレーズ
「経営戦略の歴史は“八岐大蛇”である。」
冒頭のこの比喩は、読者の心を一瞬で掴む。複雑に絡み合い、混沌としながら進化してきた戦略論の全体像を、神話の多頭蛇にたとえるこの表現には、深い示唆が込められている。
それは、単一の真理を探すのではなく、「多様性と相克の中にこそ戦略の本質がある」と著者が語っていることの象徴だ。
「優れたリーダーシップに点数はつけられない」
これはケイパビリティ派の価値観を象徴する一節であり、数値化不可能な組織能力や文化の重要性を表している。
数値やKPIでは評価できないからこそ、マネジメントには“現場での解釈力”と“実感値”が不可欠なのだと気づかされる。
「戦略の開発には、何らかの分析技法が望ましい」
ポーターのこの一言には、定量主義と定性主義の間にある実務的ジレンマが浮き彫りになる。現場では「納得」が必要。
ゆえに、数字や図解を用いた説得は、意思決定の土台となる。
5. 中小企業診断士としての考察・経営者視点での価値
僕自身、中小企業診断士として経営者に伴走する中で、ある強い確信を持つようになった。
それは、戦略論は“引き出しの数”で決まるということだ。
本書は、まさにその“引き出し”を圧倒的に増やしてくれる。
過去の理論やツールを単なる「歴史知識」としてではなく、現在の実務に再適用できる形で整理してくれている点が特筆に値する。
たとえば、クライアントの事業構造を分析する際に、ポジショニング論で業界構造を整理し、同時にケイパビリティ論で人材やプロセスの強みを補足し、さらにアダプティブ戦略でPDCAサイクルの速さを戦略に落とし込む、といった立体的戦略設計が可能になる。
6. この本が挑戦者に与える影響・実践で活きる場面
この本は、戦略の知識を「使える武器」に変えてくれる。
- 新規事業を始めるとき:どの市場で、どのアプローチで勝負すべきかを思考するための“羅針盤”になる。
- 組織改革のとき:自社のケイパビリティを再構築するにはどんな設計思想が必要かが見えてくる。
- 戦略の壁に直面したとき:ひとつの考え方に固執せず、複眼思考で再構築する視点が得られる。
何より、挑戦を続ける経営者にとって、「すべてを正解にする力=解釈力と構造化力」が養われるのが本書の価値だ。
7. 誰におすすめか?どう使えば効果的か?
推奨読者層
- 起業準備中の個人(20〜40代):戦略論の全体像を短時間で俯瞰できる
- 中小企業の経営者・管理職:過去のフレームワークを武器として再定義できる
- 士業やコンサルタント志望者:クライアントへの提案ロジックに説得力が出る
効果的な読み方
- 時系列順ではなく「対談から読む」ことで、人物理解から入りやすくなる
- フレームワークを図表化し、自社に照らして当てはめてみる
- 自分の今の立ち位置(ポジショニング/ケイパビリティ/アダプティブ)を意識して読むと、必要な視座が浮かび上がる
8. 関連書籍との違いと併読提案
『戦略サファリ』(ミンツバーグ)
戦略論の多様性を動物園のように解説した名著だが、ややアカデミックで読了にエネルギーを要する。本書はそれをより実務的かつ親しみやすい言葉で再構成してくれる。
『競争の戦略』(マイケル・ポーター)
戦略論の金字塔。しかし「ポーターの呪縛」に陥る読者も多い。
『経営戦略全史』は、ポーターを客観視しながら、彼の位置付けと限界を明確にしてくれる点で、ポーター理論の正しい使い方を教えてくれる。
『イノベーションのジレンマ』(クレイトン・クリステンセン)
「破壊的イノベーション」という現代的概念の原典だが、それ以前の理論との繋がりを断絶して読む読者も多い。本書ではその背景や思想の流れを補完してくれる。
併読推奨セット:
- 『戦略サファリ』
- 『競争の戦略』
- 『イノベーションのジレンマ』
- 『ドラッカー名著集』
9. 読者の悩み別「この本の使い方ガイド」
悩み | 活用のヒント |
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経営戦略の全体像を把握したい | 時系列で章ごとに読み進める |
特定のフレームワークを深掘りしたい | 索引機能を活用して該当ページへ直行 |
コンサルとして提案力を上げたい | 巨人たちの“思想対比”を図解して自分の言語で再整理する |
経営の意思決定がブレやすい | ポジショニング・ケイパビリティ・アダプティブの3分類で思考する習慣を |
10. 読後すぐに実践できる「5つの行動リスト」
- 自社の戦略タイプを分類する(ポジショニング/ケイパビリティ/アダプティブ)
- 現在活用している戦略ツールを棚卸しし、意図と限界を見直す
- 過去の失敗戦略を3つ振り返り、それぞれがどの潮流に属していたかを分析
- フィクション対談を再現した「社内ディスカッション勉強会」を開催
- 著者が参照した7冊の戦略書のうち、未読のものを1冊選び読む
11. まとめ:この本が挑戦に与える希望と再現性
本書は、単なる戦略論の年表や人物紹介の羅列ではない。
**「なぜその理論が生まれ、なぜ廃れ、なぜ再評価されたか」**という文脈を持って、僕たちに「使える戦略の歴史知」として届けてくれる。
読後に残るのは、知識ではない。
戦略的思考の“視座”と“引き出し”だ。
そして、それはあらゆる挑戦に向かう起業家や経営者の背中を確実に押してくれる。